RepRapプロジェクトで、FDM方式の3Dプリンターが普及した大きな理由は、もちろん、その革新的な理念によるところが大きいが、特許切れになった熱溶解積層法を使えたことも大きな要素だろう。
熱可塑性とは、簡単に言うと、熱を加えると自由に成型することができ、冷やすとその形を維持する特性だ。可塑性という言葉が、英語でいうとplasticなのだが、日本ではそれがかなり独り歩きしていて、関西では、プラッちックとも言うらしい。プラモデルの素材の様なものではなく、可塑性という性質をさす。
FDM方式で、重要な要素である素材を加熱して、ノズルから押し出すExtruderの特許が、2009年に保護期間を終了した。この特許はアメリカのStratasys社が持っていた。この技術を自由に使えたことが、3Dプリンターの低価格化に大きく寄与した。
また、素材の扱いが、とても簡単であったことも、受け入れやすい要因だっただろう。素材は一般的にフラメントと呼ばれ、現在はその種類も多様なものになっている。
2013年元年?
世界的には、家庭用/desktop3Dプリンター元年と呼ばれている。主にFDMタイプのプリンターの価格が手ごろになり、誰もが一度は見たことがある装置となった。しかし、日本で、それほどまでに3Dプリンターは、一般化しているだろうか?
さらに2014年、より工業的な利用価値の高い、SLS(レーザー焼結法)の特許権が切れ、3Dプリンターがより普及すると思われていたが、2015年ころにブームが収束してしまった
日本での普及の失速
日本においては、3Dプリンターがあまり普及しなかったのは、家庭での需要に結びつけることができなかったためだと考えている。
また、3Dプリントには長い時間がかかり、ステッピングモーターの駆動音が12時間以上続くことや、ABSなどの石油由来フィラメントを使った時の匂いなど、日本の一般家庭で使うには、環境的にメリットより、デメリットのほうが、まだ上回っており、企業の研究機関や教育機関に普及がとどまったことが考えられる。
素材ごとに、出力経験が必要で、安定したプリントをするには習熟が必要なことも理由の一つだったのだろう。
SLS型プリンターの場合
SLS型プリンターは、3Dプリンターの完成形だと思う。素材も、金属からエラストマー素材など、多様な素材を、高品質で、製造することができる。
しかし、何かを造形する際にプリンターだけ有っても、機能させることができない。
一つに、粉末化された素材の扱いが、結構厄介である。
また、金属などの可燃物をレーザー焼結させる場合は、プリントチェンバーを、不活性化ガスで満たす必要もあり、プリンター以外の補器を考えると、それなりのお金と、物理的スペースが必要になるのだ。プリント後の印刷物の処理も、手の折れる作業だ。
がしかし、SLSタイプのプリンターの値段は大幅に下がった。町工場などで、導入するのであれば、上記の導入条件はクリアすることができるだろう。
SLSプリンターのメリット
金属加工、特に高価な金属で、精密な部品を作る場合、従来は、ミーリングマシンを使って、金属塊から必要な部品を削り出してきた。つまり部品になった部位以外はすべて、切削屑になっていて、希少金属を使った造形においては、きわめてロスの多い工作工程だったが、
SLSプリンターを使うことによって、必要な形に、焼結させていくために、無駄が少ないのが、大きな経済的メリットを生む。希少金属を多用する、ロケットエンジンや、ジェットエンジンで、SLSプリンターで製造された部品に急速に移行している大きな理由だ。
テレプロダクションの本命
SLSプリンターの特許が切れているので、今後、多くのメーカーがこのタイプのプリンターを製造していくと思う。
金属金型を使った、大量生産品に対し、
- 高価な金型が不要。減価償却のための大量生産が不要。
- OnDemand供給により在庫が不要になり、保管、流通が不要。
- CADデータさえあれば、どんなものでも、需要地で生産が可能。
未曽有の世界的な危機状況を体験し、今後の産業・経済は、大きく変わっていくが、その重大な要素の一つがテレプロダクションであり、工業製品レベルの造形物が、随所で出力可能になるための革新的特許の保護期間が終了ていることは、大きな恩恵をもたらすだろう。